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小林泰三「玩具修理者」角川ホラー文庫

 そうそう、あらすじ書きとかそういうのは止めました。まるで意味がない。作者が丹念に練った内容を僕の偏狭な言葉で歪曲するのは忍びない。と同時に僕にとってもただの徒労でしかない。僕はつまり楽しむ事が目的で読み、それをどうやって楽しんだか、それはどうやって僕を楽しませたかという事が一番大事なわけで。それ以外の事にはまるで興味がない。定価幾らだったとか。何版から挿絵がつくようになったとか。そんな事を書くのにはまったく意味がない。よって、そういう方向性に基いて記事を書きます。


 高校生の時だ。本屋か図書室でたまたま手にとったのだろうか。他にも同著者の「人獣細工」を読んだ覚えがあるが、どちらを先に読んだかは定かではない。
 当時から、いやその年頃だからこそ、僕はホラーやSFが好きで、読み漁っていた記憶がある。中でもこの人の作品は、それこそ気持ち悪かった。嫌いなわけではない。むしろホラー作家にとっては褒め言葉だろう。それほどインパクトが強かった。が今読み返しても、改めてその凄さを感じた。玩具修理者と共に抱き合わされた短長編「酔歩する男」。当時はその話の中核となる量子力学について知識がなかったため、また読解力にも怪しいところがあったために、その魅力を十分に堪能する事ができなかった。しかし自分なりに知識を得た今。しみじみと彼の奥深い理論的な文章が理解できるようになったと思う。

 著者の小林泰三は1962年生まれで、現在43歳になる計算。文庫の経歴によると1999年当時大阪大学基礎工学部の大学院卒業、後大手家電メーカーに就職したとある。つまり、職業作家ではない。1995年に第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞。当時33歳。短編賞では始めての受賞者。そして同年には同じく理系畑の瀬名秀明が長編賞を受賞している。第一作である「玩具修理者」の文庫が出版されたのは1999年の4月。当時38歳。業界ではどうか知らないが、自分的に若くはない。がそれほど年を食っているとも思わない。1995年。今から10年前にもう、こんな話を考えた人間がいた。って事は凄い。ただ凄い。

 「玩具修理者」の凄いところ。最後の数行のインパクトがたまらない。最近読んだアーサー・C・クラークの天の向こう側。あの人はそつなく短くまとめあげて上手だなと思ったけれど。あの人は比べるならば全く一つの面白いネタを最後に披露すべく、話を構築する人なんだ。まぁ古い人だから深くは追求しまい。それとは比べ物にならない程、この作品は濃密な伏線に基いて、最後の種明かしを衝撃的なものにするべく作られている。
 目に付くだけ挙げてみる。姉弟は何者なのか。玩具修理者は何者なのか。生命・生物とは何なのか。弟、の一人称で話が進められていくために、読者は弟に感情移入し、最後に自分が玩具修理者によって修理されたモノだった、という衝撃を受け取る。そして自分の姉も同じく修理されたということも。まったく。思いつく限りホラー。しかも上手い。巧い。たまらない。
 特に姉弟で生物についての論議をするくだり。これこそ、僕が望んでいたものだ。僕は友達がいないから、常にこういう対話を自分の頭の中だけで繰り返してきた。一方は保守的な立場、一方は過激な主張をする立場から。互いに議論し、言いくるめる。これはひどく良い手法だと思うんだよね。つまり読者をどちらかの視点に立たせ感情移入させる事で、議論する人物の心情はもちろん、相手を論破する快感、異質な価値観を植え込まれる娯楽性――一般人は概して刺激を求めるものだろう? ――そして話の中核を成すネタの説明、前振りをも兼ねている。後ろに収録されている「酔歩する男」にはよりそういった場面が出てくるが、僕にはよだれが出そうなほど快感だった。
 まてまて。この作品は今から10年前に発表されたんだぜ。その作品に僕の好む手法が出てきている。いや、この作品によってその手法が好きな自分が構成されたのか? そんな事はどうでもいい。重要なのは、その手法が。実際に使われ、評価され、出版されたということ。僕の好きな叙述形式、僕の好きな手法、僕の考える事は。まだ。世間からずれていないようだ。その分ステレオタイプに近づいたとも言うべきか。がそんな事は知らない。ただ自分の面白いと思うものを作ろうとする原動力になるだけ。
 話が逸れた。「酔歩する男」にはそういった手法が多く使われているが、実は意外と読む側を疲れさせるものではないか? というデメリット部分も浮上してきた。「玩具修理者」は「酔歩する男」を読んでから見ると作者が意図的に「抑えて」いる気がする。それは短編という字数制限からかもしれないし、また作者が「抑えた」方が一般受けしやすいという事を自覚した上で描いたのかもしれない。実際、「玩具修理者」の方がまとまりは良い。非常に簡潔である。読後感もすばらしく「気持ち悪い」。最高だ。本当、金を取れるってこういうものなんだな。と思わされた。自分と方向性が被っているから。この人大好きだ。

 「酔歩する男」。技法的な事で特筆すべきなのは、前述した議論する方式。に加えて過去を上手に語るその方法だろう。視点は「玩具修理者」と同じ一人称だ。やはり視点となる主人公の人物は、常識的な人間であり、読者に感情移入させやすくしている。話の大半は、主人公が出会った「親友」だと名乗る人物からの独白で占められている。僕は一人称ながらここまで時点移動する小説に覚えがない。がその手法は読者に読みづらさを感じさせないものだと感じた。
 通常の三人称視点から時点移動すると、大概読者は混乱するものだ。どこまでが過去の話で、いつから現在の話に戻るのかわかりづらいからだ。その点を、作者は上手くクリアしている。主人公から見た「親友」の独白中、「親友」は自分の事を「わたし」と呼び、彼の記憶の中の、過去の主人公の事を「あなた」と呼ぶ。そして、現在の主人公も自分の事を「わたし」と呼ぶのだ。それは、独白に移行する上で主人公から「親友」への一人称視点の移動を抵抗なく進める効果があり、かつ「親友」の主観しか交えず、独白中においても登場人物を限りなく限定することで、読者を混乱させることなく、話を「読ませて」いる。まったく、金を取れるだけのことはある。
 それから、作者は特定の名詞を効果的に使う事を狙っているようだ。「玩具修理者」の名前、彼の呟く言葉は、どうやらH.P.ラヴクラフトのクトゥルフ神話に関係しているらしい。名前だけは知っているが、読んだ事はないので説明は省く。読みたいとは思うが。「酔歩する男」には、「波動関数」という言葉が繰り返し出てくる。僕は高校の時分その意味がわからなくて?マークを浮かべながら読んだものだが、量子力学に関して多少なりとも知識を得た今は理解できる。が、果たして初見の方は理解できるだろうか。そういった特定の名詞を繰り返し使う事は、読者にそれを効果的に印象付けられる反面、その意味がわからない人間に対しては逆効果を及ぼす。まぁ頭の悪い高校時代の事だから一般化はできないな。つまり、そういう言い回しもまた、作者の「味」となり印象づけるための手段にできる、ということだ。
 最後に、「酔歩する男」を構成するネタには感服した。まったく、量子力学をかじっていながら、作者は自分のずっと先まで考え及んでいた。自分がネタを1m掘ったとしたら作者は3.5mくらい掘り下げたくらいだろうか。ネタを先に使われた(二番煎じを恐れていては何も書けない事は承知だ!)悔しさよりも、圧倒的な想像力によって完膚なきまでに叩きのめされた感じだ。それでいてすがすがしささえ感じてしまう。作品は、非常に「気持ちの悪い」ものに仕上がっているが。アイデアや発想に関しては、あえて書かない方が良いだろう。そんなものは全て、日頃からのインプット/アウトプットに依るものなのだから。付け加えるならば、一つのネタを掘り下げた方が、往々にしてシンプルかつ良いものができあがる事が多いかもしれない、ということか。いくら多様な設定を盛り込んだところで、整合性がとれていなければ、それを活かす事ができなければ駄作に成り下がる。ただ思考しろ。アインシュタインも言ってる。「常にそのことを考えていたからです」

 さて。こういうひどく主観的な記事を公開するのはどうしたものか。言うなれば、熟練した(は言い過ぎか)職人が自らの技術を惜しみなく公開する事に近い。パチスロの裏技を見つけた最初の人間は。それを広めようとするだろうか? 否。一人で儲けようとするだろう。それに近い。資本主義社会において。無償で何かを提供するにはあまりにしづらい世界になりつつある。ふむ。早い話。この記事を読んだ人間と僕とが同時に同じ事を考え付いて。小説を書き。それを同じ賞に応募する可能性も。なくはないだろう? ないとは言わせない。そんな事になったら。僕が困る。自分の行いによって自分が困るとは非常に滑稽だ。明らかに、そういう娯楽を発信する業界は、早い者勝ちなんだ。
だから、僕は正直あまりこういう記事を公開したくない。
まぁ同時に。例え同じ種から小説を書き起こしても。それは全く同じものにはほとんどならないだろうし。本当に面白い方が生き残るだろう。だから、僕がそのように振舞いたがるということは。自分の技量に自信がないからだということに他ならない。あぁ、否定しない。それでも。僕は小心者だからそういう不本意な事が起こる可能性は摘み取っておきたい。何、そんなに大した記事じゃあないって? 僕もそう思う。がそう思うなら。忘れてくれ。最後まで読んでくれてありがとう。書き終えるのに1時間強はかかったか。頭の中にしまっておけばわざわざ字にする必要もないんだけどね。たまにはいいか。

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小林 泰三

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